小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 6月12日(日)
第68話:最後の救いは、え・が・お・
■前回のあらすじ…社長の出展希望の理由を聞き驚きはしたが、話し合いの結果今回は当初の予定通り沖田たちのブランドだけが出ることになったのだが…

いよいよ開催まで1ヵ月を切り、沖田たちの愛?T?愛(aitai)ブランドも企画はすでに臨戦態勢に入っていた。それもそのはずで、合同展よりも早く行われる本社展示会が直前に迫り、サンプルUPの大詰めを迎えていたからだ。
こんな時には、営業はなかなか声を掛けにくいものであったが、それでも沖田はチーフデザイナーの土井に『チーフ、どうですか?B工場のサンプルの具合は…』と沖田が声を掛けると、「何とかするわ。今も中谷さんに最終確認に行ってもらっているから、万一はないと思うけど。そっちはどうなの?社長から何か言われたの?」ともう何日も徹夜に近い土井チーフ。
『大丈夫です。とにかくお客様がどれだけ来社してもらえるかが営業の課題ですから、今はそれに僕も藤原君も必死で動いています。でも、本社でやった2週間後に合同展だから同じお客様を呼べない苦しさがあるんです。でもそんなこと言っていられないです。なにせうちがやろうって声を掛けたんですから、うちが「一番お客様が少なかった」ではすまないんです。これって今まで本社で展示会をやっていた時のプレッシャーとは全く違う感覚ですね。今までは、その時来られなくてもショウルームが常設だからいつでも見てもらえると心のどこかで逃げ道を作っていたんだと思うんです。でも、今回はわけが違います。他社がいるんですから…本当にきついし、怖いです正直。』と唇をかむ沖田。
「そうなんだ、沖田さんも大変ね。でもその本音を言うのは私だけにしてね。藤原君や中谷さんも、頭では分かっていると思うけど、リーダーからそんな弱音を聞いたら、彼らはどうすればいいか迷うから…。私たちは絶対に笑顔でいなきゃならないのよ。例え厳しいことを言ったにせよ、最後は笑顔でね…。」とにっこり笑う土井チーフ。
『わかりました。笑顔ですね、え・が・お!』と笑う沖田。
「そうそう、その顔よ。それとね、私の旦那の口ぐせがあるのよ。最近私もうつっちゃったんだけど、毎日何か困ったらそれを言ってるわ。」と土井。
『えっ?土井先輩がなんて言ってるんですか?』興味津々の沖田。
「大丈夫!しんぱいするな、何とかなる…よ。」と笑いながら土井チーフ。
『えっ?それだけですか?』キョトンとする沖田。
「そうよ、それだけ。一休さんの遺言らしいわよ。」と土井。
『大丈夫、しんぱいするな、何とかなる…ですか』と笑う沖田。
「ほら、いい笑顔になった!さあ、その顔でがんばるのよ」と笑顔の土井チーフに肩をたたかれて、
『そうですね、何とかなりますね。よおーし、客呼ぶぞ〜!』とガッツポーズをしながら携帯を見ると着信履歴が3件あった。2件は取引先だったが、残りの1件をみて、『ん?』と一瞬顔が曇る沖田だった。

■さあ、いよいよ近づいた合同展。沖田は笑顔を取り戻しながら着信履歴の相手に電話を始めた。1件の履歴は残したまま…