小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 2月27 日(日)
第61話:暗闇に手を伸ばす!
■前回のあらすじ…バッグメーカーの和田部長と沖田が意気投合し、合同展の話しで盛り上がりかけたのだが…

「沖田さん、日程も場所も決まっていなかったんですか?」と不安そうな和田。
『ええ、実はまだなんです。と言うのもこの合同展の話し自体が降って湧いたような状況で、メンバーも何社ぐらいにするのかさえ決まっていないんです。その辺を児島社長に相談に行ったら、いきなり我々が陣頭指揮をとるような形になって、私も慌てていたんです。』と言い訳する沖田。
「そうだったんですか。私たちのバッグ業界とアパレルとは多分展示会のサイクルが違うでしょうから、私にはいつが良いのかさえ判りません。そういうのが判るようなものはないんですか?」と和田。
『業界の展示会ウィークと言うのが昔はあったみたいですが、今は本当にバラバラなんです、不思議でしょ。直近でシーズンの変わり目の展示会と言えば9月ですが、それでは間に合わないし。私は11月に照準を絞った方が良いのではないかと思いますが、いかがですか?』と沖田。
「私は卸の展示会をしたことがないので、スケジュールを決めてもらえればそれに合わせます。でもあとどの企業を入れますか?」と和田。
『それも今からです。しかし、もっと簡単に考えていたんですが、よく考えると大変ですね。参加企業数で会場を設定しても、日程で合わなければ白紙になるし…どれから手をつければいいんだろう?』と頭を抱える沖田に、
「日程と場所を決めてから参加企業を決めましょうよ。すでに3社は決まっているんですから、多分大丈夫ですよ。」と和田に促されて、
『ですよね。じゃあ先程言った日程で児島社長に連絡してみます。』とダイレクトに児島社長の携帯に連絡を取って、今のいきさつを話すと、案外あっさりと了解された。そもそも児島社長も本来のOEMのブランドではなく、卸専門の新ブランドの発表だから、タイミングを図っていたのだ。
『小島社長もそれで良いから、任せると言ってくれました。では、和田さん、どこの会場が良いか候補を探しましょう。でも間に合うかなあ…』とまだ不安げな沖田。
「何とかなりますって、当たって砕けろでしょ。」と笑顔の和田に、
『いえ、砕けてはいかんのです。』と笑顔で返す沖田。
「でも場所はどこがいいんだろう?」と和田。
『ですよね。うちは渋谷で、児島社長のところは日本橋で、和田さんのところが浅草で…それぞれのお客さんが着やすい所と言えばどこなんだろう?』と沖田。
「あんまり拘らない方がいいかもしれませんよ。みんないずれにせよ新規のお客さんが欲しいんだから、どっちかと言うとバイヤーの人たちが来やすいところが良いんじゃないですか?特にアパレル関係が多い所で…」と和田。
『そうか、だったら恵比寿だな。うちは渋谷東だけど、結構恵比寿界隈のメーカーさんから廻ってこられるから…』と沖田。
「じゃあ決まり!恵比寿界隈で探しましょう!」とノリの良い和田。
そして二人の会場探しが始まったが、メジャーな会場はすでに予約が一杯で、キャンセル待ちも難しかった。二人の顔がどんどん暗くなっていったが、何件か電話をした和田が、電話をしながら沖田に向かって指でOKマークを作っていた。そこは…。

■暗澹たる気分に陥っていた二人が、暗闇でようやく手にしたものは果たして…