小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2011年 1月 31日(月)
第59話:「背負うものとは…」
■前回のあらすじ…合同展に参加したいと、児島社長の紹介で、老舗のバッグメーカーの社長からメールが入った。

「背負うものとは…」第59話
和田社長のメールに返信でアポイントを入れると、待っていたかのように電話が鳴った。
「株式会社大和田の和田と申しますが…」とメールの印象通りに少し硬い感じの声だった。たまたま受話器を取った沖田は、
『あっ、初めまして。私が沖田です。』と少し慌て気味に言うと、
「あ、これはこれは。偶然にしても直接沖田さんが出られるとは、これも何かのご縁ですね。和田です、宜しくお願いします。早速ですが、明日の朝でも大丈夫ですか?明後日から出張に出ますので…」
『明日の朝ですね、10時でも良いですか?』と沖田。
「はい、OKです。その時にうちの営業部長も同席させますが良いですか?実は私の長男ですが、実際に動くのは彼にさせようと思っていますので。」との和田に了解した。
翌朝、浅草寺の裏手の言問通りから少し入った所にその会社はあった。創業から100年以上経っているその会社は、古い本社屋とその横に建てられた、まだ新しい6階建てのビルがあった。社長室は、その新館の5階だった。
「ようこそお待ちしていました。本来ならこちらが伺わなければならんのですが、なんせ古いだけが自慢の小さな会社ですから、何でも自分たちで動かなならんのです。明日から中国に行って生地の手当てですわ。」と、メールと声の印象よりも、気さくな社長だった。
『こちらこそ、この度は有難うございます。』と沖田。
「そうそう、早速紹介します。彼が営業部長の和田です。まだまだヒヨコですから、色々と教えてやって下さい。」と父親顔の社長。
「初めまして、和田健二です。どうぞ宜しくお願いします。」と、四角い顔の社長とはあまり似ていない、細面の部長だった。
『こちらこそ、宜しくお願いします。和田部長はもう営業は長いのでしょうか?』と興味津津の沖田。
「営業としては6年です。その前はうちの協力工場で生産現場にいました。」と、淡々と話す部長。
「代々うちのやり方と言うか、みな同じ道を歩んでいます。メーカーの社長となる者は、色々な現場を知らないとダメだと言うことなんです。つまり、現場の痛みを知れと…ただ、まだまだ足りませんがね。」と社長。
『いえ、私の方が恥ずかしいです。結局サラリーマンですから、和田部長や、そのほか若い2代目・3代目の方とは、背負うものが最初から違いますものね。だから、その運命と言うか、その決断をされた方々には正直頭が下がりますし、どうあがいてもその葛藤や苦悩は他人には判らないでしょう。でも、だからこそそんな人達と一緒に、作り上げる喜びを分かち合いたいのです。多分苦労の連続でしょうが、でも私も真剣です。』と沖田。
「有難う。それだけ判ってもらえていれば、こいつもやりがいが出るでしょう。正直今日お会いするまで、こいつは乗り気じゃなかったんですよ。そうだな部長。」と、こいつ呼ばわりに変わっていた部長が、
「ええ、まあ。でも沖田さんにお会いして、今話しを聞きながら、社長が言うように前向きになれました。こんな人がアパレル業界にもいるんだなあ…と。私の知る限り、皆自分だけが可愛い人ばかりでしたから。これから宜しくお願いします。」と頭を下げる部長和田。

■業界が違うとかなり印象が違うのかと思った沖田だが、部長と話すうちにその内容が盛り上がっていった。その手法とは…