小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年11月 28日(日)
第55話:「小さなスイッチ…」
■前回のあらすじ…合同展をやりたいという沢田部長の友人の児島社長に会いに行った沖田達。部長の筋書きにまんまとはまった形になったのは、自分たちでやる合同展。その形とは…

沖田と藤原は、合同展の相談に初めて訪れた児島社長の誘導に、自分たちが主体となってそれを始めることになったことに慌ててしまった。しかもそのお膳立てがどうも部長の沢田だったような気がしてならなかった。
そんな考えがめぐる中、児島社長側の担当として紹介された池田さんと藤原が、互いに自己紹介を始めていた。池田が自社の資料を探しに行っている間に…
『藤原君、まだ決まったわけじゃないんだよ合同展は…先走らないでくれよ。』と小声でささやく沖田。
「でも、やることに間違いはないですよね」となぜかきっぱりと藤原。
『合同展のノウハウがなくて、しかも日程も会場もメンバーもまだ何も決まってないのに、どうするんだよ。』と眉間にしわの沖田。
「でも、うちと、ここと、児島社長の知人のバッグメーカーと、すでに3社決まってるんだから、あと何社か入れば出来ますよ合同展ぐらい…。」と軽い藤原。
『合同展ぐらいって、誰がそのメンバーを募るんだよ?どうやって進める?我々の都合で開催していいの?経費はどうする?』と頭を抱える沖田。
「何とかなりますよきっと。帰って部長に相談しましょうよ。」まだ軽い藤原。そこへ、
「お待たせしました。」と池田。
「うちは元々OEM主体の会社ですからサンプルは沢山作ります。その中から各企業の企画の方々と話して決めて行きます。だから、決定次第そのサンプルは外していきます。バッティングが一番怖いので。でも、うちがこれから進めたいのは、この企画力を活かしたオリジナルブランドを自社で販売していきたいということです。将来的には直営店も持ちたいと思っています。OEMだと自分たちの企画が本当にエンドユーザーに支持され、喜ばれているのか判らないのです。これはうちのデザイナー達から湧きあがった声なのです。クリエイターの血が騒ぐんでしょうね。放っておくと彼女たが転職することも考えられます。それを会社も感じ取ったのです。だから合同展のようなイベントに参加してまず反応を見ようと考えた訳です。」と熱を帯びる池田。その情熱的な話し方に沖田も藤原もその美しい口元に見とれていた。
『でも、既存先は何社ぐらいあるんですか?』と沖田。
「まだ10社ほどです。だから、合同展が決まり次第、新規で動く予定です。」と池田。
「やっぱり…」とため息をつく藤原。
『集客が一番問題だと思うんです。みんな新しい取引き先が欲しいから合同展に出るんですが、参加者が自社のお客を呼ばなくなったらおしまいですよ。』と辛口沖田。
「確かにそう思います。だからこそ、合同展という名目で新規を呼び込むきっかけを作りたいのです。自社だけでやるとたぶんもっと悲惨でしょうから…」と本音の池田。
「やりましょうよ沖田さん。みんな判ってくれますよ。」と何故か池田と目を合わず藤原。
『わかりました。とにかく社に戻って上司に報告してからにします。その時が来たら池田さんも協力して下さい。』と沖田。
「喜んで!」と笑顔の池田。

■三人の中で見えない何かがつながった。そして、「カチッ」と音がしたような沖田だった。プロジェクトが一つ動き始めた。会社と言う枠を超えるプロジェクトが・・・