小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年11月 14日(日)
第54話:「自立とは…」
■前回のあらすじ…狙っていた合同展の出展が難しくなり、意気消沈していたところを沢田部長の一喝で、情報を集めに飛び出して行った沖田と藤原。目的は自分たちの合同展。

「でも沖田さん、今から会う児島社長の会社って、確かOEMのニットメーカーですよね。卸をしているのかなあ…」と若い藤原。
『部長が話していたけど、オリジナルブランドがあるから、それを売りたいらしいんだ。つまりOEMだけだと将来に不安があるから、今のうちにアパレル機能を備えて自立したいらしい…』と最寄り駅の階段を上がりながら話す二人。
「と言うことはですよ、取引き先はほとんどないってことですよね。」と、不安そうな藤原。
『う〜ん、その辺はどうなのか詳しくは部長から聞いてないし、まあ当たって砕けろだ。』といつもの沖田。
「砕けちゃダメでしょ!」と突っ込む藤原。
『ごめんごめん、そういうつもりじゃないんだ。ああ、ここだ。』と笑いながら、地図にあった場所のビルに入っていった。
『こんにちは。K社の沖田と申しますが、児島社長は居られますか?』
「いらっしゃいませ、どうぞこちらへ」と、スタッフに連れられショウルームに入った。
「すごい量のサンプルですね」と、声を潜める藤原。
『確かにすごいな。何型あるのかな。全型全色あるんじゃないかな?』と室内を見渡す沖田。そこに登場した小柄な男性が、「やあ、いらっしゃい」と言って近寄ってきた。
『初めまして…』と挨拶を交わしてから、沖田は早速切り出した。
『すみません、お忙しい時に。うちの沢田の方から連絡が入っているとは思いますが…』とやや緊張気味の沖田。
「沖田さん、そんなに固くならないで。沢田さんからは聞いていますよ、合同展の話し。うちはもちろん参加しますよ。」と気さくな児島社長。
『あっ、いえ、まだこちらとして何も決まっていなくて、逆に色々お聞きしたくて伺ったんですけど…』と、何となく腑に落ちない沖田。
「あれ?沢田さんからは、『うちの沖田が合同展をやるから出ませんか?』と言うお誘いだと思ったんだけどね。」と笑いながら話す児島社長。
『えっ?うちの沢田がそう言ったんですか?』慌てる沖田。
「やっぱり…」と小声で納得の藤原。
「そうですよ。うちは沢田さんのところがやろうとする合同展なら、なにはともあれ参加しますよ。知り合いのバッグメーカーもやりたがっていますから。そこもうちと同じで、自社ブランドをかばん専門店ではなくて、ブティックと言う新しい販路に拡げたいそうだから…」と淡々と話す児島。
『ちょ、ちょっと待って下さい。本当にうちの沢田が、「うちがやる合同展」って言ったんですか?』と、不安な沖田。
「部長にしてやられましたね」と笑い顔の藤原。
「いつどこでやる予定ですか?それによってはうちも色々準備があるし…」とこちらも笑顔の児島社長。
『あっ、いや、あの、何も、まだ本当に決まってないんです。これから考えようかと思って、それで相談に…』と焦る沖田。
「そうですか、じゃあ、うちの担当も紹介しておきますよ。おお〜い、池田君」と呼ばれて来たのは、先程案内してくれた、長身、長髪で、細身のデニムが似合う女性だった。
「こんにちは、初めまして、池田真由と申します」と、声も明瞭だった。
「はじめまして、K社の藤原浩二です。」と、沖田が話す前に立ちあがった藤原。

■沢田部長の策略にまんまとはまった形となった沖田達。急展開を見せる合同展とは…