小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年10月 17日(日)
第52話: 「モノ・コト・ノリ」
■前回のあらすじ…沖田の元先輩の内藤が独立して作った会社が、沖田達が出展したい合同展に参加していたので、内容を聞きに訪問すると意外な言葉が…

「あかんねん、あれは」と顔が曇る内藤社長。
「実はな…」と話しが続き、
「元々は、福岡で独立した3人の若モンが集まってやり始めたんや。売り先を増やそうってな」
『ふんふん…』と身を乗り出す二人。
「2年前に、彼らがやっていたその合同展のホールの隣で、たまたまうちも2社でやってたんや九州展を…」
『ほうほう…』
「そのもう1社の社長が隣のそれを見に行って、リーダーと意気投合し、もうその晩には飲み会で盛り上がって、次は一緒にやろうというノリになったんや」
『へえ…』
「我々があと1社入れるから3対3で、ホーム&アウェイでちょうどええなとなってスタートしたのが合同展Rootsや」
『そうだったんですか、でも確か7社だと新聞にはあったような』と沖田。
「それや、その最後の1社がクセもんなんや」と急にトーンダウンした内藤社長。
『どうしたんですか?』と突っ込む藤原。
「東京でやる時に、福岡メーカーが1社増えるけど良いですかってそのリーダーから連絡が入って、ラッキーセブンで縁起がええやんと我々は喜んだんだ。なんせその1社は九州では結構有名なとこだったし、以前から知り合いになりたかったからね。今考えると、どうも東京進出に我々を利用しようとしていたみたいだけどな」
『誰かの紹介ですか?』と沖田。
「実はそこの会長がそのうちの一人の親戚にあたるそうで、独立する時の支援者で、最初の合同展の援助もしていたみたいだな」
『資金的なモノとか?』と藤原。
「いやお金やモノじゃなくて、我々でも取り難いホールの優先的な取得や、メディア取材、集客のための同業他社からの紹介など、強力なコネクションがなければできんコトや。」
『そう言えば、突然出てきた感じでしたね。僕らもそれで知ったんですけど』
「それでその影響力がだんだんエスカレートして、自らも出展して運営や演出にも口出しするようになったんや。だからこの間とうとう俺も頭にきて言うてしもたんや」
『また言ったんですか!』と沖田。
「またとはなんや、またとは。俺は紳士的に言うたまでや。“あんた何様や、現場のことは3人の若いもんに任せたらええんや、彼らが始めた合同展やし、それが好きで来てくれてはるお客がほとんどなんやから”とな」
『紳士的ねえ…』目で言う二人。
『それでその会長は何と?』と恐る恐る聞く藤原。
「これ以上同じ内容で続けると必ずマンネリ化する。だから今のうちに新たなコトをせなあかんと言うてきたんや。実際にその気配は感じてたんやけどな」とトーンダウンの内藤
『それで?』と沖田
「だから俺たちが身を引いた。俺も面と向かって言った手前、引っ込みがつかんし、いい潮時かなと思ったからな。そや、俺たちの代わりに出てみるか?」と内藤の強い言葉に
『ちょっと考えます。そこまで聞いて、“はい出ます”とは言えないし…』と、慎重な沖田に
「そりゃそうだな。まあ一度考えてみてくれ。いつでも紹介するから」と言って待たせていた次のお客の所に向かった内藤社長。挨拶もそこそこに辞すると、社に戻り早速にその件を沢田部長とチームに伝えた。

■合同展の裏側事情とその人間模様を想像できなかった沖田達へ、沢田部長の一言が新たな展開を見せる。