小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 7月10日(土)
第45話: 「強い自分…」
■前回のあらすじ…新卒採用の沖田が、社内研修が終わって配属の日、同期の仲間たちの会話に気持ちが萎えた沖田であった。

総務部長から各人に配属決定書が手渡されていった。
沖田は自分の配属先を見て驚いた。
『営業本部 営業1課の配属を命ず』とあったのだ。
営業1課は、この会社の花形部署である百貨店担当であった。まさか自分がここに配属されるとは思ってもみなかった。沖田の希望は、専門店部の営業2課だったからである。
そして、列の前に座って百貨店部を希望していたA君とB君が、いずれも専門店部である営業2課となった。とくにB君の安易な希望は、見事に打ち砕かれた結果となったのだ。
営業1課には、あと2名の新人が配属されたようだ。
『静かに!』と総務部長が一括した。
『今手渡したように、それぞれ配属が決まった。これからは、君たちがその部署を支えて行くつもりでしっかり頑張ってもらいたい。そしてその配属が永遠に続くものではないことも言っておく。市場や会社の状況に応じて、配転もありうるし、そのままその部署を担ってもらうこともあるから、そのことを踏まえてまずは与えられたポジションで存分に持てる力を発揮して欲しい。今回の配属については、先輩たちからの強い要望も加味しているから、それぞれの部署に行けば歓迎されることだろう。では、今からそれぞれの配属決定書を持って、各部の部長の所へ行きなさい、指示は部長から行われる。以上』
「部署の先輩からたっての要望らしいぜ。」と自虐的なB君。
「お前の先輩が呼んだんじゃないのか、自分の苦労を分けようとさ」と意地悪そうなA君。
「いいよなあ、沖田は。」とB君。
「俺はどっちでもいいんだよ。」と沖田。
「とにかく営業ができればいいんだ。それが百貨店だろうと、専門店だろうとおんなじだろ。自社の商品を売るんだからさ。」
「まあ、部署は違うけど、俺は絶対に一番になってやるぜ。一番になって将来はMDになるんだ。自分のブランドを持つのが俺の夢なんだ。」と案外意欲的なB君。
「俺もそうだ。」とA君。
「じゃあ、互いに競争だな。誰が一番早くブランドのMDになるか。」と沖田。
「じゃあ一番になったやつが、他の2人から好きなものを何でもおごってもらうと言うことにしようぜ。」
「よし、約束だ!」
「OK」
と、3人で手を組み約束した。そして、それぞれ各部署に向かったのだった。
それから1年後にB君が、2年後にA君が辞職した。辞めた理由は本人以外のことだった。結局沖田だけが10年間百貨店部に残っていた。その沖田も希望退職組として会社を去ったのだが…。
そんな遠い過去のことを思い出しながら、今の会社で事業部制に対してなんだかんだと言っている先輩営業マンたちと、A君B君がだぶっていたのだ。
結局、どの部署であれ、自分の能力を発揮するのは自分でしかない。他人や環境が能力を発揮させてくれるのではないのだと、沖田は信じている。
どんな環境でも自分をコントロールできる強い自分を作らなければならない。そのためにやるべきことはいくらでもあるはずだとも思っている。だから、動こうと…。

■強い営業部を作ると宣言した沢田部長からまた相談を受けた沖田は、その提案に驚いた。