小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 3月 28日(日)
第38話: 「支え合うものは…」
■前回のあらすじ…和歌山のお店から、問屋経由ではない直接取引きの依頼を電話で丁重に断ったところに、沢田部長が難しい顔をして近づいてきた。

「おい、ちょっとお茶でも飲みに行こうか。」と、沢田部長。
『あっ、はい。(電話中に、何かあったな)』と沖田。
二人で会社を出て近くの喫茶店に入った。そしていつものミルクティを注文した沢田部長は、やめるやめると言っていた煙草に火をつけてから話し始めた。
「さっき社長に呼び出されて初めて聞いたんだが、パタンナーの大垣さんが会社を辞めることになったらしい。」
『えっ!サブチーフがですか?』
「聞いていたか?」
『いえ全く。寿ですか?』
「いや、実家の秋田に戻って病気の母親の面倒をみることになったらしい。」
『秋田かあ…。でも困りましたね。大西チーフの右腕で、全て阿吽の呼吸で仕事していたから、さぞチーフもがっくりきてるんでしょうね。まだまだ他のメンバーでは完璧にカバー出来ないですもんね。何とかなるんですかパターンの方は…。』
「おいおい、えらく呑気なことを言うなあ。その大西チーフが、大垣さんがいたから一人で2ブランド見れたけれど、一人では絶対に無理だから、愛?T?愛(aitai)ブランドを誰かに任せてくれと言っているんだ。でないと本体ブランドにも必ず影響が出ると言ってるんだぞ。」
『えっ、ちょっと待って下さいよ。それうちの企画では無理ってことですか?企画外注ですか?OEM?オリジナルではなくなるってことですか!』
「そういうことだな。」
『若いひと達に任せてはダメなんですか。』
「チーフが言うには無理みたいだな。外部の補佐的な立場で勉強してノウハウを吸収するにも最低1年はかかると言っている。今全てを任せるのは無謀だと言っている。」
『サブチーフはいつ辞めるんですか?』
「今月20日だ。実家の都合らしいが、今まで面倒を見てくれていたお姉さんが、ご主人の転勤でやむなく離れなければいけないらしい。施設にも入れられないので、独身の大垣さんが自ら面倒をみると決めたそうだ。」
『そうですか。仕方ないですけど、急ですね。』
「だから大変なんだ。理由が判るだけに止められないし、こちらのことはこちらで何とかしなけりゃならん。だから、今からあらゆるネットワークを使って、ブランドを維持する方法を考えなければならないんだ。でないと、今シーズンで終わるぞ。」
『脅かさないでくださいよ、でもマジなんですね。今まで安心して営業のことばかり考えていましたが、想定外のことに頭がちょっと混乱しています。社長はなんと言われていたんですか?』
「うまく企画が決まらなければ、一つの結論もあると言っていた。」
『屋台骨を残すためですね。』
「そうなるな。」
すっかり冷めた紅茶をすすって、「考えても仕方がない、今から手分けして当たろう。」と立ち上がった沢田部長の言葉には、何だか覇気がなかった。混乱した頭の中をもう一度整理すべく、沖田はそのまま企画室に向かった。

■試練は続く