小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2010年 3月 14日(日)
第37話: 「百戦錬磨!」
■前回のあらすじ…福島のS店に訪問し、オーナーからお店の集客方法と顧客化についての手法を知り、驚きを隠しきれない沖田が社に戻ると、1通のメールが届いていた。


「お世話になります。初めてメール致します。
私は、和歌山市内で15年間ブティックを営んでいる「ホーム・ゴロー」の木下と申します。
今年の春、御社がご契約の問屋さんF社から「新ブランド」ということで紹介された愛?T?愛(aitai)の夏物を少しだけ仕入れさせて頂きました。そして先日納品された商品をウインドウーディスプレイで「アラフォー新ブランド」としてアピールしたところ、思いのほか好評で、顧客からも細く見える、若々しく見えるなど、上々の反響です。
次のシーズンからは、仕入れ予算枠も増やして本格的に展開しようかと考えていますが、F社経由ですとアイテム数にも限りがあり、さらに納入掛率も他社より高いので、沢山の仕入れが出来ません。これほど反応の良い商品は、開業して以来久しぶりの感触でスタッフも喜んでいます。市場も厳しい中ですがこのブランドを起爆剤に、和歌山市内で当店がメインで販売し、お客様にも喜んで頂ければと思っています。
現在の仕入はほとんどメーカーと直接取引であり、時期戦の現物手当てでF社を使っていますが、F社では前述の展開が難しいので、御社と直接取引が出来るようにお願いします。
もちろん納入掛率など条件の譲歩を頂ければ、お支払いなどは請求に対して100%お支払いしますし、もし御懸念であれば他社にお聞き頂いても構いません。何とぞ良い返事をお待ちしています。」
『うん?』と思いながら、沢田部長にメールを転送した。
「有難い話だけど聞いたことのない店だよなあ。君の関西の知り合いにこの店のことを聞いてみたらどうだ。実際のところどうなのか…」
『判りました』と言って沖田は、大阪の知り合いの営業の山路に電話した。すると…
「ホームゴロー?って和歌山のか?」
『そう、そこの木下さん。』
「それこっちでは有名な“褒め五郎”や、HO・ME・GO・RO!」
『何それ?』
「特に新ブランドの商品と営業を褒め倒して、好条件に持っていくんや。支払いは100%だから、たいがいメーカーは無理を聞いてまう。ところがそれをしても大きな商売にならへん。その割にバッティングには超うるさいし、なんかあるとすぐ商品交換を言ってくる。つまり、管理部門が見る数字の帳尻は優良で、現場的にはめっちゃやり難い。オーナーは元メーカー勤務で、営業のアキレス腱を熟知してる。だから必ずメーカー側が応じるように布石を打ってくるんや。」
『そういうこか・・・おおきに!ありがと。』と沖田。
「おっ、大阪弁でくるかあ。気いつきえや、ほな。」
その内容を沢田部長に報告して、営業部としての結論を出して木下社長にメールの返信をした。
【現段階では、ご当地におきましてはF社にすべてお任せしていますので、弊社と直接取引きは出来ませんことご理解ください。】

■メール送信後、沢田部長が難しい顔をしてこちらにやってくるのが見えた。