小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 10月 11日(日)
第26話: 「習慣の限界とは…」
■前回のあらすじ…営業マンの資質の問題を討議をしていた時、妻からの非常事態メールに残りをカバーするからと帰宅を許された沖田。新たにそのチーム力を問われることが。


『昨日は有難うございました。』翌朝出社した沖田は、さっそく沢田部長の机に向かった。
「お子さんは大丈夫だったか?」『はい、大丈夫です。」
「そうか良かったな。家が安泰でないと少なからず仕事に影響が出る。チーム力でカバーできるのは仕事の延長線だけで、個人の部分までは及ばない。だが、小さな会社だからこそ、そこに関わる社員の家族はファミリーと考えようと社長も言っているだろ。今度は沖田がお返しする番だぞ。」『もちろんいつでもOKです。』と胸をたたいた。
「早速だが、昨日君の代わりに竹田さんの所に行った藤原君が聞いてきた一件があるんだ。」と沢田部長の声のトーンが落ちた。
『は?竹田さんのプレゼン内容に不備がありましたか?』と心配顔の沖田。
「いや、コーナー展開のプレゼンはかなり良くて、たぶん来月にはスタートすると彼も言っていた。後で詳しく聞いてくれ。それよりも…」と、耳打ちされた話しに沖田は驚いた。
それは、以前沖田が勤めていた会社の業績が思わしくなく、百貨店部門も新たな販路拡大に専門店へアプローチが始まったとのこと。そこまでは良くある話だが、竹田さんの店に新規で来た営業が、「現物在庫を買って欲しい」と言ったそうだ。
竹田さんは、支店でアウトレット販売をしているので、在庫処分の仕入れもシーズン末期には盛んに行っていた。ただ、今の市況から既存の取引先の在庫量も多く、そのため仕入は十分過ぎるほど間に合っていた。
そこに新規で来た営業が、百貨店から戻ってきた在庫を買って欲しいと言う。有名ブランドだから竹田氏も喜んだが、その営業があまりにも「即金」でと言うので「おかしい?」とその話しを断ったそうだ。
そして後日、たまたまその会社の事を知る他社の営業に、過日の営業マンの名前を挙げると「辞めたはずでは?」と言い、それ以上の事情は知らないとのこと。だから昨日竹田氏は、胸騒ぎもあってか私を待っていたようだ。ただ、聞かれても知らないとしか言いようがないが…、と沖田は思った。
「藤原君の話しを聞いて改めて思ったのは、うちの棚卸しもシーズンに一度ではなく、毎月行わなければならないなと言うことだ。別に社員を疑うのではなく、会社として当たり前のことを当たり前に行うためだ。今まで何もなかったのが不思議なぐらいだが、気が付いていないだけかも知れない。」
『そう言えば、コンピュータ在庫と現物在庫をどうやって合わせているのか不思議だったんです。私が入社してからまだ一度も実際の棚卸しをしていないので…』
「そうだな、創業当時からの習慣だからみんなそれで良しとしてきたが、これだけ人が増えるとそうもいかない。ただ、営業活動に支障が出ては本末転倒だから、皆で力を合わせなければならない。と言う事で、君に棚卸しリーダーを命じる。」
「えっ?、それが言いたかったんですか、皆にお返しって言う意味は…」

■棚卸し照合の難しさは計り知れず、ブラックホールの様であった。そんな時に嬉しい話が舞い込んできた。