小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 4月 5日(日)
第12話: 「どちらを取るのか…
■前回のあらすじ…関西の出店要請のリサーチを終えて、NGの結論となった直後に持ち上がった企画から営業部に対してのクレームであった

 沖田の所属する新ブランド「愛❤T❤愛(aitai)」の出足は好調に見えた。それもそのはずで、半年前のデビュー展示会は、本体のミセスブランドの既存店にまず披露した形になったからだ。   
 10数年ぶりの新ブランドデビューという物珍しさもあって、苦境に立たされていたミセス専門店が、若返りのブランドとして期待し、さらに現状の取引条件のままその新ブランドを入れられるのだから、受注が入らないない訳がなかった。
 案の定、初回の展示会にしては、目標数字の90%まで展示会中に到達し、あとは未来社の既存店に見てもらって、最初の低い予算とは言え、一発でクリアーしたのだった。沖田の入社前とはいえ、前途洋々な営業部であった。
 ところが、その商品が店頭に入り初めて1か月ほど経ったころから、商品のクレームが入り始め、店頭から返品が相次いだ。(そんな時に中途採用で入った沖田は、最初のいきさつを知る由も無かったのだ…)
 企画部にまわされた返品商品の理由の多くが「ウエウトが異常に細い」「アームが狭い」「サイズ表示がJIS規格より小さい」など、大半がサイズに対するものだった。
あまりにも目立つ返品理由に、企画部から営業部に対して声が上がったのだ。
 『新ブランドの企画コンセプトは、現在の40歳の働く女性に向けてのものであり、会社の方針もそれで動いていると思っていました。ところがこの状況を見ると、果たして営業マンが、しっかりお店に説明しているのか疑問に思えます。ただ単に既存店に良い顔をしているとしか見えません。つまり新ブランドのコンセプトの【リアル40】ではなく、着ると40に見える、【ミエル40】の売り方です。これではいつまで経ってもブランドは育たないし、結果自社のシェアを分散しているに過ぎないと思います。そのあたりを営業部はどう感じていますか?』と、企画部長兼デザイナーの大西女史の口調は静かだったが、かなり感情を抑えていたそうだ。
 それに対して営業部長の沢田は、「決してそんな意図はなく、たまたまその理由が重なっただけで、大半のお店は、順調に売れていますよ。」と苦しい言い訳をしていた。
 確かに一部の店では売れてはいるが、それにしても既存店に若返りの起爆剤として披露したのはまずかったと、今さらながらに後悔していた。
 しかも営業部内をブランド制にしていないので、どちらかと言えば、売り易い商品を売って営業数字にして良いと言う、昔ながらの販売方式だった。
 沖田が入社して、さあ組織を再編成しなければと社長と話していた矢先なので、部長の沢田にしてみればカウンターパンチを喰らったも同然だった。
 「急がねば…」そう思った沢田は、沖田を引き連れてあるところへ向かった。

■次回沖田が連れられた所に、今回打開のヒントがあったのだ。そのヒントとは…次回