小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年 3月 22日(日)
第11話: 「使命と熱意!」
■前回のあらすじ…お好み焼き屋のおばちゃんに喝を入れてもらった沖田は本来の目的のリサーチに出かけた。


 出店要請のある物件は、地方都市によくあるアーケード商店街の入り口に位置し、一時は隆盛を博したようだが、今となってはほとんど人通りが絶えていた。
 その物件が起爆剤となり、地元商店街の回復を願っているようだが、どうも旨く作用していない。と言うのも、セールのこの時期なのに両者に一体感がないのだ。
 その商店街の中にも数軒だが、活気のある店が固まっている場所があった。そこだけは空気が違っていた。そんなオーナーと組んで動かなければもう先はない。
 大阪市内に帰るために駅に入ると、大阪に向かう電車は若者たちで込み合っていた。「なんだ、ここにいるじゃないか…」と、驚くとともに安心もした。ただ残念なことは、この安くない電車賃を払ってまで、都心部にセール品を求めに行くと言う会話が悲しかった。
 翌朝約束通り、リーシング会社の部長とホテルの喫茶店で対面した。フロアー企画の主任も同席し、30分程今回の経緯を聞いた。
 「早速ですが、沢田部長に打診しておりました件ですがいかがでしょう?とても良い条件だと思いますよ。」
 「貴社以外にも現在X・Y・Zの3社に提案しており、前向きにご検討頂いております。この3社が決まれば、かなり充実したフロアーになります。」とフロアー図面を広げる企画主任。
 『その前に、御社では地元の商店街にも何か働きかけをされているのでしょうか?』
 「当社というよりは、この物件のオーナーが動いております。当社はあくまでこの物件のリーシングなので。」
 『うちも今回の件にはかなり興味を持ち、また新ブランドを出したところなので、良い話しがあればと色々模索しています。ところで、当然ながらマーケットリサーチをされていると思いますが、その評価はいかがなのでしょうか?』
 「これがその分析表です。」と言って渡された冊子は思ったほど分厚いものではなかった。
 『これは頂いて良いものですか?』
 「もちろん、お持ち帰り頂いてご検討下さい。」 
 『最後に、主任にお聞きしたいのですが、大阪駅からこの最寄り駅まで電車で片道いくらですか?』
 「えっ?あっ、いや私は車で来ているものですからちょっと…」
 『ああそうですか、判りました。では改めて後日沢田の方からご返事させて頂きます。どうも良いお話しを有難うございました。』

 (そして後日、沢田はリーシング会社へ連絡した)
 『申し訳ありませんが今回のこのお話しは、ご辞退させて頂きます。』
 「その理由は?」
 『当社では力不足ということと、地元を活性化しなければならないと言う担い手としての使命と熱意が感じられないからです。』
 沢田部長が伝えた結論は、「NO」だった。沖田が感じた不安感を一掃する気概が彼らに感じられなかったからであった。つまり、彼らも不安を感じながら誘致活動をしていたのであった。

■一仕事終えた沖田に新たな問題が持ち上がった。企画部から営業部に対してのクレームだった。