小説:(隔週連載)

「がんばれ!沖田君」

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主人公:沖田裕貴(32歳)、妻(30歳)、
長女(3歳)、長男(0歳)の4人家族。

※彼が体験する業界の不思議を、
中堅営業マンの目線でお話します。
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2009年1月11日(日)
第6話: 進化の軌跡
■前回のあらすじ…赤木社長の会社で行われている小さなあたり前の行為が、普通は出来ないであろうことにジレンマを感じていた。

 営業のヒントが見えた気がする沖田は、先月引き継いだばかりの得意先に行って確かめることにした。
 松戸駅前にあるブティックアールは、20年もその商店街の中にあり、親子2代で切り盛りしていた。現在では、3代目となるかも知れない娘が店を手伝うことも多くなり、今時珍しい元気で明るい専門店である。
 「こんにちわ。」
 『あら、どうしたの?ついこの間引き継ぎで来たばかりなのに、今日は何?』
 「実はこの先に用事があって行ったので、帰りがてら寄らしてもらいました。」
 『バッティングにならないでしょうね、そこと…。うちみたいな小さな店を潰さないでよ。』
 「とんでもない。その会社との取引ではなくて、全く別件で行っただけなんです。」
 『それならいいけど、そうじゃなくても最近は厳しいんだからね。ちょっと先には大きなSCも出来たし。この商店街もどんどん店が変わってきたし…』
 話しを聞くと、商店街の店の子供が継がないとなるとさっさと辞めて隠居する。気が付くと携帯ショップやマッサージ店、さらには無人の貸金店舗にまでなっている。つまり自営業から家賃収入の転換を図った仲間が多いということらしい。でもその仲間も、商店会や婦人会などの会合には必ず顔を出して、現役ではないのにあれやこれやと現場のことに口出しするそうだ。商店街の活性化を真剣に考えて頑張っている8割のオーナーと、家賃収入で悠々自適な生活をしている2割の元オーナーとのギャップが、空疎な会合になっているらしい。
 『その2割の人たちも、借り手がいなくなった時に初めて気が付くでしょうね。あの時こうすれば良かったって』と辛らつだ。
 オーナー曰く、『こうなりゃここで骨を埋めるつもりで、改めて母親の昔の顧客と、娘のお友達と、親子3代が来店しても楽しい店を作っちゃうわよ!』と、頼もしい。
 「親子3代ですか…?」
 『なんで可笑しい?今の60代は若いわよ。もちろん40代も…。知らないのは世の中の男性だけね。たぶん女性の方が進化しているんじゃないかしら。』
 「進化?」
 『極論を言えば、男性は動かないけど、女性はどんどん動いて情報を仕入れているってことかしら。携帯の普及で専業主婦もいろんなコミュニケーションを取れるようになったし。コミュニティの数も男性の比じゃないわよ。うちにだってはるばる違う町から、友達に聞いたって来る人もいるんだから。もうそれだけでサービスしまくり!』笑顔で続く、
 『進化していないのはメーカーも同じ。10年前から止まってるんじゃない?トレンドの業界なのに…。特に大手はサラリーマン化して肩書で仕事するようになって、一体あんたどっち向いて仕事してんのって言いたくなっちゃう。結局古い慣習やしきたりから抜け出せないのよね。』
 赤木社長の話しを聞いた直後だけに、ここでも反論できない沖田だった。

■進化するって一体どうすればいいのだろうか?悩む沖田が社に戻り、沢田部長に報告すると驚く答えが返ってきた。それは…